歯科医療に革新を起こす映像プレゼンテーションシステム
カリーナシステムは、高品質・高機能の映像ソリューションを幅広い市場に提供するEIZOのグループ会社であり、兵庫県神戸市に開発拠点を置く映像技術にフォーカスした企業だ。その高い技術力を活かして、映像関連のソフトウェアや専用機器、システム開発などを行っている。
さまざまな分野や業種に向けた映像システムを開発している同社だが、その主要製品のひとつが「ADMENIC DVP2」である。歯科医院におけるマイクロスコープ(顕微鏡)を使った診療に際して、その映像を記録し再生するための専用ハードウェアを中心としたプレゼンテーションシステムだ。
また、2022年にサービスを開始した「ADMENIC DVP for Cloud(以下、DVP for cloud)」は、ADMENIC DVP2で記録した映像を「Microsoft Azure(以下、 Azure)」上に構築した基盤を通して、院内外問わず視聴を可能にするサービスだ。
ADMENIC DVP2は、歯科医や歯科衛生士が患者に対して、患部の状態や治療中の様子、治療後の結果を、録画映像を用いて説明するためのもの。歯科医院では、患部や治療状況をデジカメ等で記録して患者の説明に用いることが増えてきたが、ADMENIC DVP2はさらに踏み込んで、顕微鏡診療においてどのような治療を行ったのかを患者に対して映像で明確に説明できる。
さらにDVP for Cloudを併せて利用すると、ADMENIC DVP2内部のデータをクラウドに保存することで、インターネットを介して他のデバイスから視聴ができる。たとえば、院内で治療中にタブレットで映像を見ながら患者に対して説明したり、歯科医が自宅で過去の症例や技術を勉強したり、といった使い方を想定したものだ。webブラウザを利用したwebアプリケーションとして動作するため、WindowsのPC以外にも、さまざまなデバイスから利用できる。
カリーナシステムの久木氏は、ADMENIC DVP2の開発経緯をこう話す。「長く顕微鏡を使用している歯科医より、患者さんに治療の映像を見せるためのシステムが作れないか、と当社にご相談いただいたのがきっかけです」
「歯の小さなクラック(ひび割れ)を見つけて、治療が必要だと患者さんに説明するのに、映像で見せれば一目瞭然です。以前はハンディビデオカメラで撮影し、VHSテープに録画して見せていたそうですが、先進的な歯科医の方は、もっと使いやすい映像システムを求めていらっしゃいました」
ADMENIC DVP2は、PCベースのアーキテクチャーで、歯科診療用の顕微鏡からの映像をフルHDで取り込み、その映像を保存・管理・再生できる。治療の手を止めないよう、フットスイッチを使って足で録画の開始・終了・保存ができる。映像再生時はサムネイルを見ながらタッチパネルだけで目的の映像を即座に再生・停止・早送りなどの操作ができるだけでなく、チャプター記録の呼び出しや映像比較、画面上にフリーハンドで描画するなど、直感的な操作が可能だ。
「開発にあたっては、何人もの先生におうかがいして、歯科診療のワークフローを研究しました。歯科医が求める作業を最短で操作できるところを見つけるため、何度もディスカッションしながら作りあげたのです」
ただ、先生方の意見をすべて取り入れると機能が増えて、使いづらくなってしまう。そこで機能を絞り込むことできれいに実装できた結果、先生方にご評価いただけたのだった。
つまりADMENIC DVP2は、歯科医がその治療中にスムーズに迷わず操作できる優れたユーザーインターフェースと、高解像度の映像を自由自在に再生・表示できるデジタル映像技術を兼ね備えたシステムというわけだ。そのため、多くの歯科医から高い評価を得ており、顕微鏡診療における映像プレゼンテーションシステムとして、高いシェアを持っている。
歯科映像のクラウド基盤にAzureが選ばれたワケ
歯科医から高い評価を得ているADMENIC DVP2だが、基本的に蓄積した映像データをADMENIC DVP2が設置された診療室以外の場所で見ることは、ある程度のPCの知識が必要となってくる。そこでクラウドを使い、インターネット経由でさまざまなデバイスからADMENIC DVP2に蓄積した映像を簡単に視聴できるDVP for Cloudが登場した。
「ADMENIC DVP2のリリースから時間が経ち、多くの医院で使っていただけるようになりました。次のステップとして、蓄積した映像をもっと活用していきたかった。NASを利用したネットワーク運用はすでに利用いただいていたが、もっと簡単に低コストでデータを共有したいという声も多く、クラウドでのソリューションを検討しました」(久木氏)
治療方法や症例などを集めて、学会や勉強会などで発表する歯科医には、ADMENIC DVP2で記録した映像から目的の場面をすばやく探し、編集したいというニーズがある。また、複数の歯科医を抱える大規模な医院では、ベテラン歯科医師が経験の浅い歯科医師の診療を確認したり、逆に経験の浅い歯科医師がベテラン歯科医師の診療を見て学んだりもできる。将来的には、歯科医療におけるAIを利用した診療やサービスの開発に、蓄積した映像を活用していくことも考えられる。
このように歯科における映像とは、患者への説明において非常に有益なツールとなるだけでなく、今後の歯科の発展にも貢献しうるのだ。だからこそ映像データを安全に外部から利用可能にし、またそれを活かしたサービス構築が可能なプラットフォームとして多くのクラウドサービスの中から、Azureが選ばれることになった。
「クラウドの利用は、10年ほど前から検討し始めていました。その頃から菱洋エレクトロさんには相談にのっていただいています。そこからずっとクラウドの進化を見ているなかで、3年程前に我々が考えるサービスが実現できる目処が見えてきたので、本格的な開発が始まりました」(久木氏)
カリーナシステムがDVP for CloudのプラットフォームとしてAzureを選んだ大きな理由のひとつが「App Service」の存在だ。App Serviceとは、開発者が仮想マシンなどの環境構築を必要としないPaaS(Platform-as-a-Service)型のクラウドサービスで、クラウド上でシステムを構築する際にWindows向けのアプリケーションやライブラリを利用できるのが大きな特長だ。これがAzureを選択した大きな決め手だった。
「ADMENIC DVP2だけでなく当社では、多くのアプリケーションをWindowsベースで開発しているので、WindowsのライブラリーやMicrosoft SQL Serverが簡単に使えるAzureのおかげで迅速に開発できました」(森下氏)
「サービスを選ぶとき、App ServiceがあるからAzureがいい、と森下に強く言われた覚えがあります(笑)。最初は別のクラウドサービスでも良いかな、と思っていたのですが、確かにWindowsのアプリを動かせるのは大きいです」(久木氏)
PaaS(Platform-as-a-Service)は現在のクラウドにおける大きなトレンドになっている。さらにAzure App Serviceは、Windows向けのライブラリやミドルウェアが利用できることで、Windows向けアプリケーション資産を多く持つ組織やエンジニアにとって大きなメリットとなる。
菱洋エレクトロの吉田も「App Serviceは一から環境を構築する必要がありません。あらかじめ用意されているプランから選ぶだけで良いので、開発者は本来の業務であるアプリケーションの開発に専念できます」とその利便性を話す。
つまり、Azure App Serviceならば、サーバーの調達やOSとミドルウェアのインストールといったサーバーの構築と管理が不要であり、開発したwebアプリケーションをAzure App Serviceに置くだけで、クラウド上に短時間でwebシステムを構築することができるのだ。これはWindowsを開発するマイクロソフトのクラウドだからこそのメリットと言える。
クラウド導入を阻む課題とそれをクリアする方法
Azure導入の大きな決め手はApp Serviceの存在だったが、それ以外にもさまざまなメリットがあった。たとえばストレージの料金体系だ。 DVP for Cloudでは、映像データの保存に「Azure Blob Storage」を利用している。Azure Blob Storageは、映像や音声、画像といったいわゆる非構造化データの保存に適した拡張性が高いストレージサービスだ。
「映像サービスは、お客様がどのくらいアクセスされるのか事前の予測が難しい。もしかしたら、24時間365日ずっと再生されるお客様がいるかもしれない。そうした場合、アクセスされるたびに料金が加算されると非常に高額になってしまいます。Azure Blob Storageは、データのアクセス頻度や保存期間など、用途に応じて最もコスト効率の良いプランで保存できます。データの読み書きや取得にかかるコストが安いプランを選べば、アクセスが増加した場合でもリスクを最小限に抑えられる」(久木氏)
Azureをはじめ、クラウドサービスは従量課金制が多いため、サービスの利用が想定を大きく超えるだけでなく、設定を間違えることで月額利用料が想定外に高額となってしまうケースがある。それを回避するため、各種クラウドサービスにはさまざまなプランがあるが、今回は料金体系のシンプルさやコスト面で、Azureがカリーナシステムのニーズにマッチしたのだ。
Azure Blob Storageならば、あらかじめアクセス数が読みづらい利用シーンにおいてリスクを抑えることができる。
また、支払い手続きについても契約のハードルになる場合があると、久木氏は訴える。
「会社によっては、クラウドのように料金が予測できないものを仕入れて、自社のサービスに組み入れて販売するとなったときに、決済処理をどうするのか、というハードルがあります」(久木氏)
大手クラウドは海外ベンダーのため、料金の請求サイクルが決まっていたり、支払い方法がクレジットカードしか対応していなかったりと、融通が利かないことが多い。こうした商流や商習慣のギャップは小さなハードルだが、前述の料金上限が見えづらいことなどが重なると大きな障壁にもなりうる。
「菱洋エレクトロさんは、他の取引と同じように毎月締めで請求書をいただいた上で、従来の支払い方法でお支払いできる。社内の処理も楽なので、これは大きなポイントです」(久木氏)
マイクロソフトは長らく日本で事業を行っているため、日本の企業でも直接取引をしているところは少なくない。だが、商流や商習慣のような技術以外のハードルは、まだまだ残っていることがある。たとえば、サポートだ。
「マイクロソフトの有償のサポートサービスは年間で支払うとかなりの負担になります。菱洋エレクトロは一次代理店なので、私たちを通すことでそこも柔軟に対応できます」(野田)
「今回のカリーナシステム様のような、新しいビジネスの立ち上げの場合、売り上げ予測が見えづらいです。そういうケースでも、サポートなどについては我々の方で支援させていただくことができる」(高)
世界中でクラウドの利用が進み、さまざまなユースケースが生まれ、それによってクラウドサービスも進化している。そのため、ひとつの企業、ひとりのエンジニアだけでは、その変化をフォローし続けることは難しい。
「セキュリティのアップデートも頻繁に行われるし、サービス自体も進化しています。それによって運用コストも下がることがあるので、情報をウォッチしていますが、すべてのキャッチアップは難しい。そういうところも菱洋エレクトロさんにはフォローしていただいている」(久木氏)
デジタル庁が発足し、行政から教育、医療、製造業といったあらゆる業界で“DXの推進”が課題になっている。さまざまなシステムがオンプレミスからクラウドへ移行し、そこからはクラウドネイティブなサービスやエンジニアも生まれてきている。
映像のような重いデータをクラウドに保存し処理することも、数年前なら考えられないことだった。また、医療のようなセンシティブな情報を扱う分野も、クラウドには馴染まないと言われていた。しかし、クラウドやネットワークは高性能になり、セキュリティも確かなものとなった今、技術的な面ではクラウドサービスでできないことはほとんどない。
こうした潮流を受けてカリーナシステムでは、ユーザーのニーズに寄り添いながらADMENIC DVP2で進んだ歯科医療におけるDXを、DVP for Cloudによってさらに高い段階へと押し上げようとしている。そしてカリーナシステムがクラウド利用を進めていく上で、菱洋エレクトロは多方面からサポートするパートナーとして共に歩んでいる。
クラウドによって歯科への映像プレゼンの導入ハードルが下がった
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