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東海大学ソーラーカーの準優勝を影で支えた“空力計算の秘密兵器”に迫る

世界的にクリーンエネルギーへの需要が高くなっている中、オーストラリアで開催される「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(BWSC)は、世界レベルで太陽光技術を競う場として高い注目を集めている。「東海大学チャレンジセンター・ライトパワープロジェクトソーラーカーチーム」(東海大学ソーラーカーチーム)も20年以上にわたり参戦しており、2度の優勝経験もある強豪だ。

ライバルとの激しい競争に東海大学では空力性能で優位性を得ることを狙い、インテル「Optane DC パーシステントメモリー」を搭載したインテル製のHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング:高性能計算)向けサーバーを導入した。その経緯と狙いについて、東海大学の福田紘大准教授、システム構築を担当したビジュアルテクノロジーの森直樹氏、菱洋エレクトロの下山政俊の3人が振り返った。

  • 課題

    東海大学チャレンジセンター・ライトパワープロジェクトソーラーカーチームは、ソーラーカーの開発に重要な空力計算に使用する高性能なコンピューターを必要としていた。
  • 解決策

    電源がなくともデータが保存でき、通常よりも読み書きが早く、大容量で安価なメモリーを搭載したインテル製のHPC向けサーバーを提供した。
  • 効果

    パフォーマンス、計算スピード、メモリー容量ともに十分であった為、手元ですぐに利用でき、無理のないスケジュールで効率的に開発を進めることができた。レース本番では準優勝を飾ることができた。

プロジェクトメンバー

  • 東海大学
    工学部 航空宇宙学科
    准教授 博士(工学)
    福田 紘大氏

  • ビジュアルテクノロジー株式会社
    HPC/エンタープライズ事業本部
    営業統括部 
    リーダー
    森 直樹氏

  • 菱洋エレクトロ株式会社
    ソリューション事業本部
    ソリューション第6ビジネスユニット
    プロダクトセールス第1グループ
    下山 政俊

最先端のソーラーカー開発に不可欠な空力シミュレーション

2019年10月13日から約5日間にわたってオーストラリア大陸をソーラーカーで北から南まで縦断するBWSCに東海大学が参戦、トップから11分18秒という僅差で惜しくも優勝を逃したが準優勝となった。

 

2年ごとに開催されるこのレース、北のダーウィンから南のアデレードまで約3000キロを太陽光で発電した電力だけで走り抜けるという過酷な挑戦だ。東海大学では、教育および研究の一環として1990年代からこのレースに参戦しており、2009年と2011年には総合優勝を飾るなど、レースのたびに優勝候補としてメディアなどが取りあげることも多い。

同大学の福田准教授は、東海大学ソーラーカーチームの監督を務めている。総監督の佐川耕平助教(工学部電気電子工学科)と、もう1人の監督の木村英樹教授(工学部電気電子工学科)らとともに、ソーラーカー開発とレースを指揮する立場だ。

そのなかでも福田氏の役割として大きなものが、ソーラーカーの開発における空力に関するところ。福田氏は数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)の専門家で、過去には宇宙航空研究開発機構(JAXA)などでも研究開発に従事してきた経験を持つ。

現在ソーラーカーに限らず、自動車メーカーの新車開発やモータースポーツのレーシングカー開発において、コンピューターを利用したシミュレーション技術を多用している。コンピューター上に車だけでなく、路面や空気の流れを再現し、実際に走らせた時の車体周りの空気の動きを流体力学に基づいて計算、車が受ける空気抵抗や車の周囲に発生する空気の流れを再現するというものだ。

空気抵抗をはじめとした、車が走行時に外部から受ける力が少なければ、それだけ走行に必要なエネルギーも小さくなり、燃費(電費)が向上する。従って、小さなエネルギーしか利用できないソーラーカーにおいては、空気抵抗を少なくすることがレースの結果に直結するのだ。

「ソーラーカーレースでは、昔から空力は一番重要なのですが、最近はさらに重要性が増しています。2017年からレギュレーション(レースのルール)が変更されて、ソーラーパネルが以前より小さなものしか使えなくなり、パワーが減らされました。960ワットぐらいしかないんですね。ドライヤー1個もないぐらい。その小さなパワーで速く走るためには、消費されるパワーを減らさなければいけない。だから、空力性能をさらに向上させて空気抵抗を減らさないと速く走れないんです」(福田氏)

レースカーの空力を検証するには、実車や模型を使い風洞実験を行うことが一般的だった。だが、近年ではコンピューターの性能の向上と流体力学の研究が進んだ結果、コンピューターによるシミュレーションが普及している。シミュレーションならば実物を作る必要がないためコストも抑えられ、設計という早い段階で空力をリアルに検討できるメリットがある。

ただし、空力の計算、すなわちCFDを活用するには、非常に高性能なコンピューターが必要だ。そのためHPCと呼ばれる、高性能なコンピューターが必要となる。そして、CFDにおいて特に重要なのが、メモリーの容量だ。莫大な計算を行うためCPUの演算性能も重要だが、CFDの場合は非常に大きなメモリーを必要とする。

「車の中で大きな空気抵抗を作り出すものとして、タイヤがあります。タイヤの周りの空気の流れはシミュレーションが非常に難しくて、まず回転していますし、地面と接しています。さらに実際には変形もします。表面にはトレッドという溝もあり、その間にも空気の流れができます。これらが空気抵抗を大きくさせる要因なんですが、その影響を正確に再現しないと良い車は作れない」

「タイヤ周りの流れのシミュレーションを高精度に行うためには、1輪でもかなりのメモリーが必要です。ソーラーカーは4輪なので、開発に使えるぐらいの精度で計算するためには、タイヤが4個だと1テラバイト(1000ギガバイト)ぐらいのメモリ(DRAM)が必要となります」(福田氏)

一般的なパソコンが搭載しているDRAMは、4ギガバイト~8ギガバイト。だが、福田氏がソーラーカーのシミュレーションをするためには、その数十倍〜数百倍もの容量が必要となり、そうしたDRAMを搭載したコンピューターの価格は、数百万から数千万円は下らない。このため、福田氏も研究室でおいそれとは調達できずにいた。だが、2019年のBWSCの開催日は決まっており、それまでにシミュレーションに費やせる時間も限られている。

どうにかしてタイヤ周りの流れを再現したシミュレーションを実施したい。そこで、レースまで残り半年となった頃に、福田氏はビジュアルテクノロジーの森氏に相談を持ちかけた。同社はこれまでにもCFDをクラウド上で計算できる環境を構築するなど、ソーラーカー開発と福田氏の研究を計算基盤の面から支えてきた会社だ。

実は、森氏自身も東海大学工学部航空宇宙学科出身で、学生時代にはCFDを研究していた。そのため、シミュレーションに必要な計算内容がどのようなもので、そのためにはどのような計算基盤が必要なのか、森氏はすぐに理解した。そこで森氏が提案したのが、インテルの「Optane DC パーシステントメモリー」だった。

なぜインテルの最新メモリーを提案できたのか

Optane DCパーシステントメモリーは、インテルがマイクロン・テクノロジーと共同開発した「3D XPoint」という不揮発性メモリーを利用したプロダクト。3D XPointは、SDカードやSSDに採用されているフラッシュメモリーのように、電源が入っていなくてもデータを保存できる一方で、一般的なフラッシュメモリーよりも読み書きが速いという特徴がある。

この3D XPointをデータを保存するためのストレージとしてではなく、計算を実行するためのメインメモリーとして利用できるようにしたのが「Optane DCパーシステントメモリー」なのだ。2019年4月に発表されたばかりの新製品で、DRAMよりも速度は劣るものの、安価に大容量メモリーをコンピューターに搭載できることがメリットだ。

「最初は値段を聞いて驚きました。テラバイトクラスのメモリー搭載サーバーが我々の研究室とか中小企業でも買えるくらいの金額でしたから」(福田氏)

だが、本当にOptane DCパーシステントメモリー搭載サーバーで、CFDを高速に計算することができるのかは未知数。発表されたばかりの新製品かつ新技術のため、そうした先端事例がまったくない。福田氏自身も判断するための材料が皆無だった。

そこで、今度は森氏が、菱洋エレクトロの下山に相談を持ちかけた。菱洋エレクトロはインテルの販売代理店であり、これまでもビジュアルテクノロジーがインテル製CPUやサーバーなどを調達する際の窓口となっていた。

森氏の相談を受けた下山には、すぐにある考えが浮かんだ。実はインテル自身が、Optane DC パーシステントメモリーを搭載したコンピューターの新たなユースケースの探索をしていた。HPCマシンでの検証は事例がないため下山はインテルと相談して、Optane DCパーシステントメモリーを搭載したコンピューターをインテルから借り受け、福田氏にCFDでの利用を検証することを提案したのだ。

「我々はインテルの一次代理店なので、メーカーと直接貸し出しについて交渉することができます。福田先生の最先端研究で使ってもらうことは、メーカーにとっても良い事例になるとインテルに推薦しました」(下山)

レースに向けてタイムリミットが迫るなかで、福田氏もその提案に同意。そして、菱洋エレクトロが窓口となってインテルからOptane DCパーシステントメモリーを借り受け、ビジュアルテクノロジーの手によって2テラバイトのOptane DCパーシステントメモリーを搭載したHPCマシンが生まれたのだった。

「最初はどうなるか私にもわかりませんでした。だから、お貸し出しするときは、先生に『通常のDRAMよりも多少速度は劣りますよ』とお話ししていました」(下山)

「正直に言いますと、私たちも最初は戸惑いました。Optane DCパーシステントメモリーを触るのが初めてだったので、利用できるように設定するのに手間取りました。そこは、インテルや菱洋エレクトロの支援を受けながら、作業しました」(森氏)

5月の連休が明けた頃、ようやく研究室にHPCマシンを設置。福田氏は実際に触ってみて、まずは驚いたという。

「スピードは遅いと聞いていましたが実際に使ってみると、そこまで気になりませんでした。レースまでには十分間に合うし、これを使えばレース前の段階でタイヤ周りの流れの影響を把握することができます。価格差も含めて『これいいな!』と素直に感じました」(福田氏)

こうしてレースの半年前に、ソーラーカーの空力を自由に計算できる環境を手に入れた。

「初期はある程度の低い精度で、いろいろな形状を試します。そうやってデザインを絞り込んでから、最後はより細かく計算する。今回の解析は、この最終段階の詳細解析になりますが、段階的に進めることで、効率的な開発をマネジメントすることができました」(福田氏)

このように、設計段階からトライアンドエラーを繰り返し、空力性能を詰めていくためには、手元ですぐに利用でき、かつ現実的な時間でシミュレーションを行えるOptane DCパーシステントメモリーを搭載したHPCマシンが不可欠だったのだ。

空力計算はもっとニーズが増えるから高性能コンピューターももっと必要に

 

インテルのOptane DCパーシステントメモリーを搭載したHPCによって、東海大学ソーラーカーチームはBWSCにおいて見事、準優勝を飾った。

これによって、ライバルもより空力を重視し、次のレースではさらに競争が激しくなると福田氏は見ている。

「正直、レベルは上がっています。上位の5チームぐらいは予算も数億円クラスで、かなりのお金をかけてます。中でもオランダのチームはだいぶレベルが高い」(福田氏)

そうした中で、福田氏をはじめとする東海大学のチームが競争していくには、これまでの経験と、チームのメンバーだけでない周囲の協力企業などとの連携が大切だという。

「私達が幸運なのは、森さんや下山さんといった企業の皆さんとお話できる機会があるので、いち早くOptane DCパーシステントメモリーの情報もいただけるし、相談もできます。そこが一番ありがたい」(福田氏)

また、こうしたOptane DCパーシステントメモリーを利用したCFDのノウハウは、ソーラーカーレース以外の分野においても今後より重要になっていくという。

「外部の方には『空力は完成した技術じゃないか』と言われるのですが、空力をやっている身としては、課題がいっぱいあって『いや、まだまだ』と思っています」(福田氏)

例えば自動車産業では、さらなる燃費向上のために、より現実世界を反映した精度の高いシミュレーションが必要とされているという。

「我々ソーラーカーの世界もそうですけど、乗用車の開発でも次のステップとして非常にニーズが高いです。車は動いているので、非定常的な運動をしたときに、車の空力特性が変わります。さらに、空気の流れは乱れていて、横風もある。本当の自然な風がどうなっていて、その影響をどう設計に落とし込むのかが求められています。課題はいっぱいあります」(福田氏)

 

こうした目的においても、エンジニアが手元で空力を設計し、すぐにシミュレーションで検証できるOptane DCパーシステントメモリー搭載HPCマシンは、非常に価値がある。そして、これらのノウハウをもっと広く共有していくことも大切だ。

例えば、同じくBWSCに参戦している工学院大学や名古屋工業大学のチームと学会が主催している講習会に参加し、お互いに情報を交換している。

「ライバルでもあるので、情報全部は出さないですが(笑)。でも、日本全体の底上げのためは必要なことですから」(福田氏)

そうして、日本全体で取り組んでいくことで、人材も底上げされるうえに、技術への需要が増えればいろいろなものが集まってきやすくなる。そもそも、BWSCという大会自体が、世界規模での太陽光技術の普及のために始まったものなのだ。

次のブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジは2021年に開催され、そのレギュレーションは2020年6月に公表予定だ。福田氏たち東海大学チームも、それに合わせて新たなソーラーカーの開発をスタートさせる。そのために、HPCマシンを研究室で新たに購入している。

「もっと大規模な計算をしたときに、どのくらいのスピードが出るか、どんな風に調整すれば良いのか、まだまだ情報が不足している。メモリーが足りなければ追加したり、インテルから新しい製品が出たら取り入れたりしながら、どんどんやっていきたいです」(福田氏)

次のレースに向けて、すでに水面下では競争が始まっている。予算や人材の面では、海外のライバルチームが優勢なのは否めない。だが、東海大学ソーラーカーチームと福田氏らは、チームだけでなく協力企業や、その周囲の人とのつながりまで活用し、総力を挙げて優勝を目指している。

~お知らせ(2023年8月)~

東海大学ソーラーカーチームは、2023年8月29日、ソーラーカーの最新技術の発表イベント「Bridgestone Solar Car Summit 2023(ブリヂストン主催)」において、参戦体制発表会を開催し、新車を発表しました。パーツに再生材料を使用するなど、”究極のサステナブルなソーラーカー”です。今回発表された新車は、2023年10月に開催される「Bridgestone World Solar Challenge 2023」で走行します。イベントの様子は、FNNプライムオンラインでも報道されました。

>”究極のサステイナブルなソーラーカー”東海大学がお披露目
 ※FNNプライムオンラインのサイトにリンクします。(2023年8月30日放送)

 

~お知らせ(2020年12月)~

本記事にてご紹介しました「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ(The 2019 Bridgestone World Solar Challenge)」に密着したドキュメンタリー番組「Light Speed」がYoutube Originalにて2020/12/8/より公開中です。
全6部構成で、インタビューにご対応頂いた福田准教授もEpisode5,6に登場されています。
過酷なレースの全貌がリアルに紹介されていますので、宜しければご覧ください。

>「Light Speed」(Seeker Channnel)はこちら

【ご視聴にあたって】(2020年12月現在)
・Episode3以降はYoutube Premium会員の方のみ視聴可能ですのでご注意ください。
 ※3か月間の無料トライアル期間が利用可能です。詳しくはYoutube公式ウェブサイトにてご確認ください。

大学名 :東海大学

大学URL:https://www.u-tokai.ac.jp/

業種  :教育、学術研究

学校概要:教育・研究機関として人材、知識、技術、機能を有し、全国にキャンパスを展開する総合大学。「文理融合」の教育理念のもと、知識偏重教育を取らず幅広い視野と柔軟な発想力を持つ人材の育成を目指している。

住所  :湘南キャンパス 〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1

会社名:ビジュアルテクノロジー株式会社

企業URL:https://www.v-t.co.jp/

業種:その他の事業サービス業

事業概要:科学技術分野向け計算機システムの開発・製造・販売・レンタル及びエンジニアリングサービス(受託解析、常駐・派遣サービス他)、先端技術を活用した新規事業開発

本社住所:〒111-0052 東京都台東区柳橋2-1-10

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