データセンターには「コンテナ型」と「液冷」が最適な時代に
ゲットワークスは、コンテナ型データセンターの設計から構築、運用を自社で手がける企業だ。コンテナ型データセンターとは、コンテナ船や貨物列車の輸送で利用される金属製の大型コンテナを転用して、内部にサーバーラックなど必要な機材や設備を備え付けたサーバールームを作り、そのコンテナを何十台と並べてデータセンターとして構築したもの。
ゲットワークスではこのコンテナ型データセンターを全て自社で設計・構築し、さらに設置と運用までできる、日本では数少ない企業だ。
「コンテナを他社に納める際も、運用や保守だけでなく、その上で必要なソフトウェアの開発まで対応できます。コンテナ型データセンターに関わる事業を一から十までワンストップで行えることが弊社の大きな特徴です」(林氏)
データセンターを設置するには、一般的に専用の建屋を建設するため、土地の確保や建屋の建設、各種設備の設置などで計画から稼動まで数年単位の時間がかかる。しかし、コンテナ型データセンターではコンテナというユニットの中に必要な機材等を全て格納するため設置のための作業が短く済むのが特徴だ。完成したコンテナの出荷だけなら最短で1カ月、設置する場所の造成や電力等の引き込み工事などを含めれば4カ月ほどで稼動に至る。
「鹿児島県にコンテナ10棟からなる消費電力1メガワット規模のデータセンターを構築した際は、契約を締結してから設計を経て稼動まで4カ月で実施しました。これはコンテナ型ならではのスピード感で、一般的な建屋型データセンターでは実現困難な工程期間であると考えます」(林氏)
AIの開発や利用のためのGPUは性能が上がるにつれ、GPU単体の消費電力も増加傾向である。そのため、従来の建屋型のデータセンターでは建設計画時の想定よりも多くの電力が必要となり、GPUなどのAIプロセッサーを新たに増やせないケースが出てきた。こうした建屋のデータセンターの場合、電力供給能力を増強するには内部の電力供給装置や配線の更新工事を伴うため、場合によってはデータセンター全体の停止が必要になるなど、簡単なことではない。
また、GPUの消費電力の増加は発熱量の増加にもつながる。これまで一般的だったヒートシンクにファンで風を送る空冷では追いつかず、液体を循環させてGPUを冷却する液冷を望むケースが多くなってきた。
一方で従来のデータセンターでは、一般的なオフィスビルとは異なり、液冷に使う液体を供給するための水道設備などが限られている。また液冷装置は非常に重く、サーバーラック1台あたりの重量が1トンを超えるものもある。データセンターは最新のものでは1平方メートル当たり1.5~2トンの床荷重に耐える設計になっているが、古いデータセンターやオフィスビルを転用したデータセンターでは、それよりも床荷重が低いものも少なくない。
「これまで、液体冷却の仕組みはスーパーコンピューターなどで利用されていましたが、多くの一般的なサーバーでは空冷が用いられていました。しかし、当社では2018年頃からサーバールームの冷却に液体を用いており、2~3年前からのGPUの需要増と消費電力の上昇トレンドを受け、サーバーに対する液冷のニーズが出てくるのではと考え、液体による冷却の技術やノウハウを蓄積し、備えていました」(林氏)
そこで、ゲットワークスではSupermicro製の液冷クーリングタワーと、液冷対応GPUサーバー、冷却液の循環をコントロールするCDUを導入。Supermicro製の液冷クーリングタワーを導入したのは、日本で初めてとなる。
「GPUの冷却に水を使ったチラー型冷却装置も検討しましたが、拡張性に難がありました。コンテナ型データセンターは需要に応じてどんどん拡張できることが特徴です。そこで、大規模な冷却能力を持ちつつ拡張性もあるGPUの冷却ソリューションを探していました。Supermicroさんと菱洋エレクトロさんからご提案いただき、検証も兼ねて自社のデータセンターである湯沢GXデータセンターに導入を決めました」(林氏)
昨今の生成AIブームによって、AIのためのコンピューティングリソースは切迫している。もっとも需要が足りなかった時期には、コンシューマ向けのGPUカードが店頭から消えるほどだった。今ではそこまでではないものの、クラウドでのGPU提供サービスは数カ月待ちとなることも少なくない。
そこに短いリードタイムで設置可能なコンテナ型データセンターと、冷却能力および拡張性が高いSupermicro製の液冷クーリングタワーの組み合わせは最適なソリューションといえる。すでにこの組み合わせでの新規データセンター設置の引き合いが来ていると林氏は言う。
大雪の中、雪国データセンターに大型装置を輸送し設置
ゲットワークスによるSupermicroの液冷クーリングタワーの導入にあたっては、菱洋エレクトロが代理店となり、湯沢GXデータセンターまでの輸送も担うことになった。菱洋エレクトロは半導体やコンピューターなどの専門商社で、時にはサーバーラックなどのファシリティも扱ってきた。
しかし液冷クーリングタワーは、それ自体がコンテナに匹敵するほどの大きさであり、設置にあたっても冬季の屋外での作業となった。これは菱洋エレクトロにとっても初めてのことだった。
さらにデータセンターの所在地である新潟県湯沢町は、国から特別豪雪地帯に指定されており、年間平均積雪深は3メートルを超える。こうした地域での冬季の大型装置の輸送は、困難が想定できた。
この時のことを菱洋エレクトロの永田は、次のように振り返る。
「できるだけ早く設置したいとご要望をいただいたので、最短で出荷可能だった12月の設置が決まりました。実は、輸送当日は気象庁から注意報が出るほどの大雪だったんです。朝から天気予報や高速道路の通行状況などをずっとチェックしていましたが、なんとか無事に輸送できました」(永田)
「1月や2月なら積雪で厳しいので春先まで延期したと思いますが、12月ならギリギリ大丈夫だと判断しました。結果、湯沢によく来ている私たちでも驚くほど予想外の大雪となりましたが、菱洋エレクトロさんが入念に準備とシミュレーションをしてくださったおかげで無事に輸送できました」(林氏)
この連携の裏には、菱洋エレクトロとゲットワークスが培ってきたパートナーシップがあった。
「Supermicroの代理店企業はとても多いのですが、私たちは単純な販売だけでなく、パートナーとして協働できる企業を探していました。菱洋エレクトロさんは何を売るのかだけでなく、どの製品を入れたらお客様に喜んでいただけるかを考えてくださったり、このようなお客様がいるから一緒に提案したい、というところから動いてくださっていました」(林氏)
「自社のデータセンターにサーバールームを作りたいが貸しビルのオフィスなので電力が不足しているというご相談をお客様からいただいていたんです。そのタイミングで、Supermicroの担当者からゲットワークスさんをご紹介いただきました。これまではハードウェアの提供に留まっていましたが、ゲットワークスさんとやり取りを進めてファシリティの使用環境まで提案の幅を広げられたのは大きいと感じますね」(永田)
前述した、生成AIの需要が急増して自社のサーバールームの電力供給が追いつかなくなり、増強したいものの簡単には進まないという相談は、菱洋エレクトロの顧客からも届いていた。そこで、ゲットワークスのコンテナ型データセンターの貸し出しを提案したところ、好評だったという。
そうした経緯もあって今回、液冷クーリングタワーの導入をサポートすることとなった。永田は「Supermicroの代理店なので、お見積りなどの情報はいち早く提供した」と話すが、林氏は「『代理店だから』というだけではない」と話す。顧客のニーズを踏まえた提案力が、パートナーシップの鍵となっているようだ。
「計算力こそ国力」──拡大するAI需要に応える現場力
大雪注意報が出た12月某日、湯沢GXデータセンターでの設置工事も雪が降りしきる中での作業となったが、その作業は想像以上にスムーズに進んだと林氏は言う。というのも、ゲットワークスではコンテナ型データセンターの構築にあたって、パートナー企業と共に配管などファシリティに関する工事を自ら行っているからだ。
「データセンターの業態は不動産業の側面がありますが、実は私たちは土木や建築のノウハウも持っています。コンテナ型データセンターの冷却に地下水を用いる実証実験をずっとやってきました。そのため、コンテナの設置だけでなく配管などの作業も通常業務として行えるんです」(林氏)
また、Supermicroの液冷クーリングタワーおよび液冷対応GPUサーバーは、それ自体がソリューションとして完成されたパッケージだったため、設置作業もスムーズに進んだ。設置に立ち会った菱洋エレクトロの永田も拍子抜けするほど「いつも通りの作業」として完了したという。
コンテナひとつを運ぶだけでデータセンターの必要なファシリティや機材が用意できるという特徴に加えて、長年にわたってコンテナ型サーバーの設計・構築だけでなく、現地への設置に係るさまざまな作業を自分達でやってきた、というノウハウの蓄積がデータセンターを必要とする企業から選ばれる際の大きな要素となる。AIデータセンターのニーズが高まる中、コンテナ型データセンターとSupermicro製の液冷クーリングタワー、そしてGPUサーバーの組み合せにおいても、設置に関して自社で対応できることは、リードタイムの短縮に向けて今後大きな武器となるはずだ。
今回のようなGPU冷却のための液冷ソリューションの導入にあたっても、安全でスムーズな設置作業のノウハウを有効活用。今後、データセンター需要が高まる中で、こうしたノウハウを始めとするアドバンテージは、ますますコンテナ型データセンターへの注目を集めるだろう。
実際に、データセンター需要の高まりを受けて、ゲットワークスのコンテナ型データセンターへの引き合いは、生成AIブーム以前の「数倍」というレベルで増加しているという。このため同社は現在、コンテナ型データセンターの構築能力の増強に注力している。
「これまでデータセンター用コンテナは月産で10~20台程度でしたが、2025年内には50~100台まで作れるようにする予定です」(林氏)
このニーズの中には当然ながらAIデータセンターも多く、最新のGPUサーバーの設置においては液冷が欠かせない。つまり素早いAIデータセンターの設置には、Supermicro製の液冷クーリングタワーをはじめとする液冷ソリューションが不可欠だ。
「今、日本で必要とされるAIのための計算資源需要に対して、供給がまったく足りていません。これでは日本企業が海外に遅れを取る一方となります。ITがこれだけ重要になってくると、極論すると計算力こそが国力だと考えることもできます。そこでデータセンターの設置に何年もかけるのではなく、コンテナデータセンターでどんどん供給しないといけない。そういう使命感や危機感を持っています」(林氏)
こうした計算資源の確保においてデータセンターの設置、そしてそこで動かすGPUの確保が欠かせない。そこに対して菱洋エレクトロは、NVIDIAやSupermicroの代理店として、日本がますますAIを活用しDXを推進するため、そして国力にもつながる計算資源の確保のために、ゲットワークスと同社のコンテナ型データセンター事業を支援していく。